ぼくのをあげる

 

櫻井は、鏡の前で顎をあげ、筋張った首に指を這わせた。

 「うー・・・ん・・・」

 唸る彼の喉は震え、指先に振動を感じる。

 しかし、彼はずっと納得がいかないのだった。

  

「翔くん?」

 気がつけば、楽屋の入口には、松本が立っていた。

 「俺、ノックしたよ?」

 と、櫻井が尋ねてもいないのに、松本は言い訳するように言うものだから、 櫻井は、くす、と笑いがこみ上げる。

 なんだか落着かなさそうな態度になっている恋人がかわいかった。

 「どうしたの?」

 首を観察するのを辞め、櫻井は、楽屋の座布団に座りなおした。

 松本は、畳の上にあがると、櫻井の勧めてくれた座布団の上に座り、セットリストの相談事を始めようとしかけたのだが、ふと櫻井に向かって瞬きを繰り返す。

 「松本?」

 「翔くん、さっき、なにしてたの?」

 首筋を覗きこむ様な仕種をする松本に、櫻井は照れて鼻を掻いた。

 「いやー・・・」

 「首、どうかした?」

 「いやー・・・ねえ・・・」

 「うん」

 「喉仏、探してたんだけど・・・なかった」

 すると、くすくす松本は笑いだした。

 櫻井のすぐ下で揺れる松本のてっぺんの髪が揺れて、たまに櫻井の顎を擽る。

 「見せて、見せて」

 「ん」

 松本が笑顔で強請ってくるものだから、櫻井はやはり照れ臭そうにして顔を上げ、首を晒してみせた。

 「ほんと、だね」

 興味津々に目を輝かせる松本の表情を櫻井は見ることができなかったが、その声の調子で、それは十分に彼にも伝わった。

 「な。ないだろ?どこ行ったんだろ」

 「さあ?」

 「松本は?」

 「俺?あるよ」

 今度は松本が顎を上げ、櫻井がそれを覗きこむ番となった。

 「わかる?」

 確かに、松本には、喋ると上下に動く喉仏がちゃんと見えた。

 何故、自分にはないのか、櫻井はますます不思議な気がする。

 「なんでねーんだろ」

 櫻井がそう言うと松本が笑い、一緒に喉仏も動いて笑う。

 「あげようか?」

 「貰えるものならいただきたいっすよ」

 「じゃあ、噛んで」

 櫻井は松本の言葉に動揺して、上目に彼を見た。

 松本は顔を戻すと、口の端をにやりとさせて笑う。

 試すような視線を櫻井に投げかけ、その反応を楽しんでいるようにみえた。

 「ばか言ってるんじゃありません」

 めっ、と顔をしかめっ面にしてみせる櫻井に、松本は楽しそうな顔をした。

 「ほんとに、ほんとに、翔くんに噛んで欲しい、俺の喉仏」

 「なに言ってんだよ。誰か来たらどうすんだ」

 なんて、呆れた声を上げたいのに、上ずるようになってしまうのが、櫻井は自分でも恥ずかしい。

 「じゃあ、来る前に」

 覗きこんでくる松本から逃げるように櫻井はそっぽを向いた。

 「ねえ翔くん、はやく」

 甘えるような鼻声が、櫻井を存分に誘惑してくる。

 櫻井は、悔し紛れに唇を突き出してした。

 どうしたって、彼は、松本のそうした仕種に弱い。

 それが作為的であろうとそうでなかろうと、どうでもよくなってしまうし、それを前にすれば、全てが無邪気なもののような気にさせられるのだ。

 松本の誘惑に陥落するのももはや時間の問題だった。

 櫻井は不貞腐れたような表情のまま、ちらちらと儀礼的に辺りを見回した。

松本はにっこり笑って顔を上げ、猫が喉を鳴らして甘えるように、気持ち良さげにそこを晒す。

 「なんで、俺が・・・」

 なんて、まだ口では抵抗している体を装い、櫻井は松本の喉仏へ唇を寄せていった。

 唇が触れる間際、櫻井は赤い唇を開ける。

 そして、彼の白い歯が、松本のそこへ、静かに立てられていった。

 

 

 

 

 

 

 

(なんかよくわかんないけど)おわり

 

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